古 い 万 年 筆

 

部屋の片づけをしていたら、箱の中から大学時代に使っていた文具が出てきた。学部生の頃はルーズリーフに万年筆一本で講義に出ていた。その万年筆が出てきた。


万年筆などというと大層なことだが、実際には生協で買ったプラスティック製。当時は500円くらいだったと思う。今なら100円ショップで買えるような代物。使いっぱなしのまま、箱に放り込んであった。ペン先を支える辺りにインクが固まっている。


しかし、ペン先は生きているようだ。机の引き出しを覗いてみると、インクのカートリッジがあった。箱のバーコードの上に通っていた大学のテープが貼ってある。何度か引っ越しをしているのに、ほぼあの時のまま引き出しの中に残っていたのだ。すっかり忘れていた。


早速、ペン先部分を水洗いする。ペン先の金属部分以外は透明のプラスティックに無数の疵がついている。それは使っていた当時からすでについていたものだ。うっすらと黄ばんでいるのは煙草のヤニだろうか。


払った水滴を乾かしている間ももどかしく、さっさとインクのカートリッジを差し込む。待つことしばし。メモ用紙にペンを走らせると、水と雑ざった薄墨のような青いインクがペン先から出てくる。自分の名前を書いてみる。決して書き心地がいいわけではない。それになんといっても軽すぎる。普段使い慣れている一般的なボールペンに比べると、その軽さは歴然。しかし、書き慣れれば、それもさほど気にならなくなる。ついでに比べてみたが、鉛筆というのはボールペンより随分軽い。


20年以上も前に使っていたチープな文具を復活させて、しばらくこれを使ってみようと思い始めている。さすがに持ち歩くことはないだろうと思うが、机ではしばらく使ってみよう。多分、かなり早い時期に劣化しているプラスティックが当方の筆圧に耐えきれず、割れることだろう。


部屋の片づけをしていると、棄てられずに結局箱の中に戻して、しばし生き延びるというものが多くて困る。ノートの類も困ったものだが、鉛筆などの文具は「まだ使える」と思うと、絶対に棄てられない。そうかといって、鉛筆などそう使うものではない。あちこちで無料で提供される簡便なボールペンもどんどんたまる。


そんな中、カートリッジを変えれば「半永久的に」使える万年筆に寿命までつき合ってみようかと思っている。握りが割れたくらいではテープを貼って使い続けるかもしれない。モノへの愛着と消費に誠実であろうとする気持ちが部屋の片づけを遅らせる。


尤も、厳密に言えば、片づいていないわけではない。日常的に使わないもので部屋が占拠されている状態をなんとか解消したいのだ。しかし、その主たる「敵」は紙なのだった。本ではない。紙。


(つづく)